色彩のマジック ミュシャの二面性と逆説

      2017/05/27

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ミュシャ渾身の超大作を観ました!

 

新国立美術館にて、ミュシャの『スラヴ叙事詩』全20作を鑑賞しました。

大きなもので長辺が8mを超える大きさのインパクトに加え、会場内で写真撮影可能な作品もあり、話題にしやすさを意識したキャッチーな企画展だったと思います。

 

ミュシャと言えばアール・ヌーヴォーを代表するグラフィックデザイナーです。

パステル調の親しみやすい色彩センスで数多くのポスターを手がけました。

 

『スラヴ叙事詩』に観るミュシャの二面性

 

しかし『スラヴ叙事詩』においては、紛れもなくミュシャ特有の可愛らしい色彩ながら、それが観たこともないほど神々しい力を発揮していました。

影になる部分にも色彩が溢れ、画面全体があたかも柔らかく発光しているかのように見えます。

『スラヴ民族の賛歌』

商業用ポスターのポップなデザインセンス。

歴史画における、民族への帰属意識や信仰を宿す荘厳な光の演出。

ミュシャの色彩感覚にはこの二面性を見ることが出来るのではないでしょうか。

 

ミュシャの肉筆画

 

リトグラフという方法の版画作品で知られるミュシャですが、肉筆画では

  • タッチが強く残った筆致
  • 自然光を意識した陰影表現
  • 筆触分割と呼ばれる特殊な色の扱い方
    など印象派の画風にかなり近似しています。

筆触分割とは?
遠目で観たときに、隣り合う色どうしが混ざり合って見える錯視を利用した技法です。
色の鮮やかさを損なわない陰影表現が可能になります。



少ない色数で無限に近い色彩を表現できるため、インクジェット印刷の網点にも同じ原理が使われています。

 

印象派が登場する以前の、19世紀半ばまでのヨーロッパの美術観では、絵画は教会や貴族の依頼による宗教画や歴史画以外に芸術的価値がほとんど認められていませんでした。

印象派は、その閉塞感を打ち破るように起こった運動です。

庶民の何気ない日常の光景に着目する姿勢が、その最大の特徴と言えます。

 

現代の”芸術”の感じ方からすれば、身近なモチーフを扱い予備知識がなくとも楽しめる親しみやすい印象派ですが、その本質は当時の既存芸術や体制に対してのラディカルな反骨精神にあります。

 

技術の発展と印象派の登場

 

印象派の発生には、画材メーカーによる新しい絵の具の開発が大きく関与しています。

チューブ入り絵の具の誕生です。

これによって、乾燥や劣化を気にせず画材を持ち出して屋外で絵を描く、という行為が容易になったわけです。

 

屋外で絵を描くとなると、目に飛び込んでくるのは太陽に照らされた自然と人々の暮らしです。

 

天候の変化、風に揺れる木々、忙しなく動き回る人々。

スピーディに絵を完成させなければなりません。タッチが残ります。

 

持ち歩ける絵の具の種類は少なく、混色するパレットは小さい。

筆触分割を活用することで色数を増やします。

 

印象派的な技法は、屋外で絵を描く際の制限に最適化された、あるいは必然的に確立された方法だと言えるでしょう。

 

美術史における逆説的な存在感

 

しかし、ミュシャが印象派的な技法によって描いたものは、『スラヴ叙事詩』という巨大な歴史画の連作でした。

『聖アトス山』

印象派の画家達が避けたはず画題に挑戦したということです。

そして逆説的に、印象派的な色彩に溢れた光の表現が、古典的な宗教画を凌駕するほどの神々しさを放っているのです。

 

ミュシャという画家の絶対的な魅力と、美術史を通してみた相対的な魅力。

僕にとって、その両面に気付かされた素晴らしい機会となりました。

 

 

 

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