絵を描く楽しさ倍増! 色彩を豊かにするマチエールの効果

   

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色彩理論の第2弾です。

過去僕が制作した『サイ』の絵画を例に、マチエールと色彩の関係性について考えていきたいと思います。

今回はかなり絵描きのためのノウハウになってます。

第1弾の『色の相対性』までの知識を前提に解説していきますので、ぜひご覧のうえで読んで参考にしてください。

 

マチエールとは?

 

絵画でこの言葉を使われたとき、ほとんどは絵肌のことと考えて問題ないです。

絵の具は、色彩を持っているというのがまず第一に思い浮かぶ性質ですが、どんな絵の具でも物体としての体積を持っているんですよね。

だから絵の具を扱うという概念には純粋に色彩を扱うこと以外にも、絵の具をどういう形状で乾燥させて固めるかということも含まれています。

 

マチエールが魅力的な実例

 

ゴッホの場合

写真でしか載せようがないのが惜しいですが……

ゴッホの作品の印象に、マチエールの重要性が非常によく現れています。

写真で見るとなんてことはない『ひまわり』ですが、実物を見ると比喩表現ではなく絵の具が物体としてそそり立っていて、異常にトゲトゲした絵肌をしています。

友人のゴーギャンと関係がギクシャクしパニックで自分の耳を削ぎ切るなど、多くのメンタル爆発エピソードがたくさんあるゴッホという画家ですが、その人間性の【ヤバさ】が作品のマチエールから感じ取れたりします。

 

アングルの場合

ただ結構誤解が多いのは、マチエールを意識するというのは必ずしも絵の具をモリモリして凹凸のある絵肌を作ることだけではないです。

すごく綺麗な絵です。

新古典主義のアングルという画家の『グランド・オダリスク』という裸婦像は、陶磁器や絹と喩えられるような滑らかな絵肌をしています。この作品も実物を鑑賞するとマチエールへのこだわりを感じられる絵画だと思います。

というのも、

キャンバスの布っていうのはそもそも網目の凹凸があるものなんですよね。

絵を描く、というのはキャンバスに何かしらの塗料を付着させたり、浸透させたりする行為のことなんですが、その際に多少の凹凸がある布を使うと塗料が付着する表面積が増して、乾いても塗料が剥がれ落ちずにしっかり定着してくれます。
水分を吸収しない滑らかな面に塗料を付着させても乾燥させるとペリペリ剥がれるんですね。

しかしアングルは、滑らかな絵肌が欲しかった。だから絵の具で平坦な下地を作ってから絵を描いているのです。
というわけで、絵肌の凹凸を無くす、というのも絵の具という物質の形状を工夫してマチエールを作り上げることに変わりないわけです。

 

むしろ、アングルのような技法の方が古典的なので、マチエールの本来の意味合いは絵肌を滑らかにするというところにあり、近現代絵画の文脈での、絵の具を盛り上げるイメージから考えると、ネジれた意味合いを持つ概念になっています。

 

一番クリアな理解とすれば、マチエールとは絵画の立体的な要素だといえるでしょう。

これがあるからこそ、絵画には写真を通してではなく実物を鑑賞すべき意味があります。

 

マチエールの効果で色彩を豊かにできる

 

マチエールも色彩表現に関与するという話です。
僕の作品を見てください。

この作品は水分の少ない固めのアクリル絵の具を、幅の広い平筆で擦れさせながら、何重にも色味を重ねています。塗り重ねた下地の色が、擦れた部分から露出するような塗り方をしました。

微妙な色合いの変化を感じられるかと思いますが、原則的に絵の具はチューブから出したままで混色はせず、使っている色数は10色以下です。

つまり、画面に見えている絶対的な色数は10色程度なんです。
それでも、10種類に限定した色数かつ混色をしないという条件で、複雑な色彩表現は可能だということです。

 

これは視覚的な錯覚を利用した技法です。

第1弾の記事にて、色彩は相対的な関係性の中で視覚的な質が決定されると説明しました。

 

黄緑の下からのぞくオレンジ色と、水色の下に見えるオレンジ色は、実質的には同じ色ですが、全然違う色の印象として見えてくる。

色の数は少なくても、それぞれの色の隣接の仕方や面積比の関係性が多くなると、色の見え方が豊かになるわけです。

 

そして、マチエールには色彩を豊かに見せる効果があります。

僕の作品で言えば、絵の具を擦れさせると下に塗った色との隣接の仕方が複雑になります。
さらに擦れた絵の具が乾燥すると画面に凹凸が生まれ、塗り重ねる絵の具の擦れ方も変則的になる。

こうした塗り方は、絶対的な色数を増やさずとも、塗り重ねるほどに色の関係性の複雑さを生み出し、相対的に色数を膨らませていくのです。

 

 

絵を描いていると、使いやすい色の絵の具という個人的な好みが誰しもに出てきて、色彩感覚のボキャブラリーが偏り貧相になってしまうことがよくあります。

その際に、もちろん使う絵の具の種類を増やすという対処法が一番分かりやすいですが、色の関係性が複雑になるような絵の具の塗り方を変えてみることのほうが、実はもっと簡単に色彩感覚を養うために効果的な場合が多いです。

たとえば、いつもと違う筆で描いてみたり、違う素材に描いてみたり、水や油の混ぜ具合を変えてみたり、いろいろ試してみてください。

 

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