色彩のゲシュタルト 明日の鑑賞と制作のために

      2017/05/29

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絵画の価値は、歴史的背景など作品そのものだけではない様々な要素によって決定づけられます。

しかし、ここではそうした文脈を排除し、視覚的情報のみに着目した効果的な色彩表現について考えたいと思います。

 

 

色が持つ要素

 

色彩は三つの要素、色相・明度・彩度によって構成されます。

 

その要素が分かりやすくまとめられているのが下の絵で、色相環と呼ばれるものです。

 

 

  • 色相は三つの環の内部での位置
  • 明度は垂直方向での環の位置
  • 彩度は水平方向での環の位置

をそれぞれ指します。

簡単に言って色彩というのは、白と黒そして原色、あるいはそれらをどの程度混ぜたか、によって一つの視覚的質感を帯びています。

 

コントラスト⇔グラデーション

 

ここで、コントラストグラデーションという概念を紹介しましょう。

原則的に色相環における距離が大きくなるほどに、二つの色のコントラストは強くなっていきます。

 

白であれば黒。

淡さと鈍さ、鮮やかさの差。あるいは円環内において対峙する色どうし。

例えば黄であれば青系統の色味はコントラストが高い関係と言えます。

 

グラデーションの関係にあるのは、例えば黄と隣り合う黄緑です。

つまり、グラデーションとはコントラストが抑えられた微妙な色の変化のことを指しています。

この関係性を端的に表したのが次の絵です。

 

黄を背景にした場合、グラデーション的な黄緑の円と、コントラスト的な青の円の見え方の違いに注目しましょう。

まず目に飛び込んでくるのは、間違いなく青の円であるはずです。非常にくっきりと見えます。

それに比較すると黄緑の円は背景との境界線がぼやけた印象になります。

 

ここで分かることは、コントラストの高い色どうしの接触はバチバチと視覚を刺激し注視させる効果を持っているということ。

加えて、グラデーションは境界線の区別が付きにくく形の認識が散漫になることから明らかなように、視線を放散させる効果を持っていることです。

 

色の相対性

 

しかしこれは、ある一定の色にはくっきりと見える効果があり、ある一定の色にはぼやけて見える効果がある、ということではありません。

先ほどの絵の背景色を変えてみました。

 

黄の背景の場合は青の円が目立ち、紺の場合は黄緑の円が鮮明になるのが分かると思います。

 

隣り合う色が変われば色の見え方は変化する。

つまり色彩の質というのは、その色そのものが持っている絶対的な性質ではなく、全体の関係性から相対的に現れてくるものなのです。

 

意識の在り方

 

色がどのように見えているか。

 

黄や紺といった背景色があるわけですが、意識はそれぞれ青い円、黄緑の円に向いています。

このとき意識されているものをと呼び、意識の外に投げ出されたものをと呼びます。

 

これは文字で考えればわかりやすいです。

 

あなたは今この文章を読んでいますね。

この文章は黒い文字としてはっきりとしたコントラストで浮かび上がって見えているわけです。

 

あなたが、見ている、認識している、情報を受け取っている……

それは黒い文字であって、背景の色を注視しているのではない。

 

このとき文字は図であり、背景は地となっています。

傾向としては、視野において最も支配的な面積を持っている色が地として認識され、その地に対してコントラストの高い色面が、基本的に図として捉えられます。

実は、人間の認識能力は無意識的に視覚的情報を地と図により分ける性質を持っているのです。

 

視線の流動

 

下の絵は、黒から白にかけてのグラデーションバーを、それぞれ 白地と黒地に配置したものです。

白地においては右端が、黒地においては左端が、それぞれ図として目に飛び込んでくることがわかると思います。

そして、グラデーションの流れの向きが自然に分かると思います。

その証拠として、上下では意識の中心に現れる図の位置が逆になるため、流れの向きも逆になっていることに気付くでしょう。

 

これはグラデーションの、視線を放散させる効果によるものであり、色彩によって視線の流動を促された結果です。

このコントラストとグラデーションの効果を適切に利用すれば、鑑賞する人の視線の流動をコントロールすることも可能です。

 

色彩と構図のコンビネーション

 

では、絵画において効果的な色彩表現とはどのようなものを考えればよいのでしょうか。

 

単純に考えて、図に吸い込まれた視線が画面から離れないような仕掛けがある、という基準が最も分かりやすいと思います。

良い絵は目を離せない力を持っているというのは誰しもが認めることだからです。

 

この仕掛けの作り方にはさまざまな方法が確立できるだろうと思われます。

その中でも下の絵のような循環系の構図が最も基礎的なものになります。

 

 

じっと見ていると、黒い円が最も印象的な図として認識され、視線は右の長方形に沿って時計回りに。

白い円にたどり着いて、再び黒い円に視線が移る。

という流れが自然に汲み取れたかと思います。

色調がグラデーションになっているからですね。

 

地の色を黒くした絵も用意しました。

さっきの絵とは逆回転で視線を動かしたくなりませんか?

 

 

このような循環系の構図を組めば、比較的簡単に視線を逃さないようなバランスの良い構図が可能となります。

 

原理の魅力 個性の魅力

 

ところで、これは原理的な話で、究極的には単なる○で同じ効果が得られます。

しかし、原理に従って露骨に構図を組むだけでは魅力的な個性を演出することは難しく、この原理から離れるほどに個性的な絵になりますが、またこの原理から離れるほどに稚拙な絵にもなります。

 

重要なのは、この原理で得られる視覚的効果を上手く維持しながらも崩し、個性に反映させるようなバランス感覚だと言えるでしょう。

 

 

この色彩の知識を活かして、明日から絵を見る時間がちょっと素敵に、絵を描く時間がちょっと楽しくなってもらえれば、こんなに良いことはないと思います。

 

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